片側三車線の大きな幹線道路から少し入ったところに、寂れた商店の並ぶ通りがある。そのうちのひとつに古い理髪店があり、これといった特徴のない店だったが、その窓辺にはいつも猫が座っているのだった。そこを通るのは決まって夜更けだったが、ショーウィンドウの向こう側に置かれたスツールの上に座って、夜更けの通りを見つめるその様子は、どこか生気をもった置物のような、不思議な佇まいであった。フォトジェニックと言っていい眺めであったが、いちども写真に撮らぬうちに、いつのまにかその店は取り壊されていた。店舗とはいえ他所の家の内部にカメラを向けるということに無意識に抵抗があったのか、猫を撮るという行為の内にどこか安易さを感じていたのかわからないが、とにかく自分が記録を残す前にその風景は消えたのだと思うと、道路や建物といった、不動に近く堅牢であると思われる物体も、それがその時時にふさわしい生気をもって存在しうる期間というのは、存外に長くはないのかもしれないと思った。
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